税理士になるには実務経験が必要になります。もともと税理士事務所や税理・経理に関する業務の担当者として働いていた場合にはあまり問題にはならないでしょう。しかし、自営業をしている人にとっては、自営業での実務経験が税理士になる際に使えるのかどうかが不安になることがあります。税理士になるための実務経験は自営業でも大丈夫なのでしょうか。
税理士になるために必要な実務経験
税理士になるためには国税庁が実施している税理士試験に合格するだけでは十分ではありません。試験の合格は前提条件で、さらに税理士法第三条(税理士の資格)に定められている実務経験の条件を満たす必要があります。租税に関する事務、あるいは会計に関する事務に従事した期間が通算で2年以上なければ税理士として登録できません。弁護士や公認会計士の資格を持っている場合には実務経験の要件はありませんが、一般的には実務経験がなければ税理士登録はできない仕組みになっています。
税理士になるための実務経験は税務官公署、その他の官公署、会社などにおける税務か会計に関する事務を指します。実務を経験した時期は問われず、税理士試験に合格した前でも後でも構いません。ただし、機械的事務については該当しないと定められています。そのため、近年よく用いられている自動化された会計システムや確定申告ツールを用いて租税や会計の業務をしていた場合には実務経験として認められません。また、システムに領収書のデータを入力するだけ、ツールで作成された書類を印刷するだけといった業務も実務経験にはならないのが原則です。
税理士の実務経験として自営業は含めることが可能
税務官公署やその他の官公署、会社などでの実務は経験として認められるので、自営業をしていた場合にも会計または租税に関する事務に携わっていた経験も税理士の実務経験に含められるというのが一般的な見解です。ただし、自営業を実務経験に含めるときには注意点が3つあります。
租税や会計の業務にかかわっていた時間だけがカウントされる
自営業の場合には税理士の実務経験として認められる時間が極めて限られている場合がほとんどなので注意しましょう。租税や会計の業務にかかわっていた時間だけがカウントされ、トータルで2年間に到達した時点で税理士登録が可能になります。
例えば、店舗で商品販売をしているケースを考えてみましょう。租税や会計の業務は一日の労働時間に対してどのくらいの割合になるでしょうか。朝9時に開店して店舗販売に従事し、21時に閉店したとしましょう。その日の仕入れや販売などに基づいて帳簿にきちんと仕訳をして記録したり、決算書類を作成したりするのに1日平均1時間かかったとします。すると13時間の仕事のうちで1時間しか租税や会計の業務に携わっていません。1年の自営業での経験は1/12年になるため、2年間の実務経験を積むには24年も必要です。
もちろん、自営業の内容が税務や会計にかかわるものであれば2年間で済む可能性があります。配偶者が税理士や公認会計士で、税務や会計の事務作業をフルタイムで手伝ってきたという場合には2年間でも実務経験として認められる可能性があるでしょう。ただ、関連性のない事業を自営業でおこなっている場合には、税理士登録をできるようになるまで長い年月がかかります。
実務経験として認められる項目に含まれていなければならない
税理士の実務経験として認められるためには機械的事務に該当しないことが必要です。自営業でデータ入力をしただけで、書類の作成は税理士に任せていたという場合には実務経験になりません。特別は判断を要しない機械的事務に該当しない事務として、税理士法第三条三項に書かれている以下の6つのどれかでなければ実務経験として認められないので注意しましょう。
1.簿記上の取引について、簿記の原則に従い取引仕訳を行う事務
2.仕訳帳等から各勘定への転記事務
3.元帳を整理し、日計表又は月計表を作成して、その記録の正否を判断する事務
4.決算手続に関する事務
5.財務諸表の作成に関する事務
6.帳簿組織を立案し、又は原始記録と帳簿記入の事項とを照合点検する事務
どの事務も税務や会計についての専門知識に基づいておこなう必要があります。専門知識がなくてもできる作業は実務経験と見なされないのが原則です。
2の仕訳帳等から各勘定への転記事務は近年の会計システムでは自動化ができるようになっています。振り分けの条件を設定してシステムに処理させていた場合には実務経験に該当しないので気を付けましょう。他の項目についても自動化のシステム構築をした時間や、システムを動かしたり、必要な情報を入力したりした時間は実務経験をした時間にはカウントされません。あくまで専門的な業務をおこなったときだけが実務として認められるので注意しましょう。
業務にかかわっていた時間を示す証拠が必要になる
税理士の実務経験については登録申請書と在職証明書、職務概要説明書による書類審査と税理士会による面接などによる調査がおこなわれます。はっきりとしたプロトコルや共通のガイドラインが定められているわけではないため、登録する税理士会によってやり方には違いがあるのも特徴です。最終判断は税理士会次第なので、書類を整えて確かに2年以上の経験があると認めてもらえるように努力する必要があります。
自営業の場合には自前で在職証明書を用意しても信憑性を疑われることは否めません。職務概要説明書によって自営業歴、租税や会計の業務に携わってきた割合を示すことは可能ですが、根拠となる客観的情報を示すのは難しいでしょう。基本的には証拠となる書類が用意できなければスムーズに納得してもらうことはできません。自営業の人にとって最も難しいのが業務にかかわっていた時間を示す証拠を用意することです。
業務時間の中で税務や会計に費やされる時間についての認識は税理士会によって見解が異なります。10分の1と見なされると20年の自営業歴が必要になるでしょう。業務記録を毎日残していき、実務時間を積み上げていけば資料として参考にしてもらえる可能性があります。それでも改ざんの可能性があると指摘されることもないわけではありません。自営業の経営者として税理士に必要な実務経験を増やすのは容易ではないと言わざるを得ません。
自営業の実務経験は補助的に使うのがコツ
自営業での実務経験は経営者が実務をしていたことを示せれば多かれ少なかれカウントしてもらえます。ただ、自営業だけで2年分の実務経験にするのは困難です。自営業で業務に携わっているだけでは税理士になるための条件を達成できることはあまりありません。積極的に実務経験を積み上げて登録できるようになりましょう。
自営業をしながらフリーランスで租税や会計の事務に携わるだけでも、実働時間に応じて経験を増やせます。店舗経営の場合にはアルバイトに店舗の仕事は任せてしまい、自分は税務や経理に関連するフリーランスの仕事に従事しても構いません。このような形で税理士の実務経験として認められる仕事を中心に置き、自営業での実務は補助的に用いるのがおすすめです。自営業の実務経験も積み重ねていくと数ヶ月以上分になることがあります。補助的に使えるように実務時間を業務記録として残しておくようにしましょう。

